三角比の指導(1)
三角比の指導を例に挙げる。
本来すべきことは、
(1) 直角三角形の1鋭角が決まると、対応して3辺の比が1つ決まり、これらにsin,cos,tanといった名前がつけてあることを理解する
(2) sinθ,cosθ,tanθの定義を正しく暗記する
(3) 直角三角形がどのような向きになっていても斜辺,対辺,隣辺の区別ができるようにする
(4) 角の大きさの定義が「角の開き具合」から「始線からどれだけ回転したか」に拡張されたこと、つまり、スカラー量の見方からベクトル量への見方に変わったことを理解する
(5) 角の大きさが、円を360等分する方法とは別に、半径に対する弧の長さの比で表せることを理解する
(6) 座標平面上の、原点を中心とする半径1の円に対応させることで、鋭角以外の場合も三角比を定義できることを理解する
だが、テストで点数が取れる生徒が必ずしもこれらをきちんと理解しているわけではないし、もちろん理解している人間が、問題を解く際にいちいち理論を構築しているわけでもない。
問題に対して本当に必要な処理は何か考えよう。
ただし、注意点がある。これから処理のフローを考えるとき、上で使っているような「理解」という言葉を使ってはいけない。それは処理ではない。「○○を理解する」という言葉は、よりマクロな視点に立ったときの脳内活動の変化の総称であり、ときに活動の仕組みが分からないものに対するごまかしを含むからだ。
例1) 次の値を求めよ。
<フロー1>
入力:「」,「」,フォーム「xxx」
※…数値、x…その他
↓
判断:求めるものは「角」?「比」?
フォームのが既知-「比」,が未知-「角」
↓
「比」
↓
終了状態フォームを「」とする
↓
「」に対し、フォーム「」を用いて分母を抜き出す
※…マスキング
↓
入力:「3」-分母として
↓
判断:その三角形は「縦長」?「横長」?「二等辺」?
3-「縦長」,6-「横長」,4-「二等辺」
↓
「縦長」
↓
読み出し:「縦長」の三角比
↓
判断:斜辺?,対辺?,隣辺?
2-斜辺,「縦長」--対辺,「縦長」-1-隣辺
↓
フォーム「」を用いて分子を抜き出す
↓
「」読みかえ「1」
↓
入力:「1」-分子として
↓
判断:三角形の位置?
↓
保留
↓
サブルーチン「弧度法表示から単位円内の三角形の図示」呼び出し
サブ開始]
出力:x軸,y軸,単位円図示
↓
読み出し:分母-「3」
↓
出力:半円を「3」等分する点をとる
↓
読み出し:分子-「1」
↓
ポインタ初期位置:円の右端-0°-0ラジアン
↓
ポインタの動きのフォームは、分度器上の鉛筆の先の動きから類比
↓
ポインタ停止位置:カウント「1」つめの点
↓
出力:停止位置から原点へ線を結ぶ
↓
出力:停止位置からx軸へ垂線を下ろす
↓
チェック:「縦長」?
↓
OK
↓
読み出し:2-斜辺,「縦長」--対辺,「縦長」-1-隣辺
↓
出力:2-停止位置と原点を結ぶ線,-停止位置から縦に伸びる線,
1-原点から、「停止位置から縦に伸びる線」のふもとを結ぶ線
[サブ終了
↓
サブルーチン「符号判断」呼び出し
サブ開始]
判断:x軸を基準に「上」?「下」?
↓
「上」
↓
出力:なし
↓
判断:y軸を基準に「右」?「左」?
↓
「右」
↓
出力:なし
[サブ終了
↓
読み出し:-
↓
検索:単位円上の三角形の辺に書かれた「斜辺」「対辺」の数値
↓
入力:斜辺-2,対辺-
↓
出力:
↓
チェック:終了状態?
↓
OK
これはもちろん1例であり、ステップは前後するだろう。フォームも異なるかもしれない。実際には我々はこれらを並列処理したり、キャッシュから読み出したりしてほとんど無意識に行う。
重要なのは、成績下位層の生徒は、例えばこのフローのどこでエラーを起こすか、ということである。
例をいくつか挙げよう。
<フロー1*>
入力:「」,「」
↓
判断:求めるものは?
↓
検索:キャッシュにある「」を含むもの
{キャッシュからのサブルーチンの交雑}
↓
終了状態のフォームを「°」とする。
↓
キャッシュ読み出し: -60°
↓
出力:60°
↓
終了
これは、矯正の難しさという点で苦手の中ではかなり重度のものだが、ありふれたフローでもある。「判断」や「チェック」はほとんどなく、無意識に負荷を減らしているのだと思われる。
一方、次のものは比較的軽度である。
<フロー1**>
入力:「」,「」,フォーム「xxx」
↓
判断:求めるものは「角」?「比」?
フォームのが既知-「比」,が未知-「角」
↓
「比」
↓
終了状態フォームを「」とする
↓
「」に対し、フォーム「」を用いて分母を抜き出す
↓
入力:「3」-分母として
↓
判断:その三角形は「縦長」?「横長」?「二等辺」?
{感覚による対応誤り
3<6
↓
角の大きさ小}
3-「横長」,6-「縦長」,4-「二等辺」
↓
「横長」
↓
読み出し:「横長」の三角比
↓
判断:斜辺?,対辺?,隣辺?
2-斜辺,「横長」--隣辺,「横長」-1-対辺
↓
フォーム「」を用いて分子を抜き出す
↓
「」読みかえ「1」
↓
入力:「1」-分子として
↓
判断:三角形の位置?
↓
保留
↓
サブルーチン「弧度法表示から単位円内の三角形の図示」呼び出し(不完全)
サブ開始]
出力:x軸,y軸,単位円図示
↓
読み出し:分母-「3」
↓
読み出し:分子-「1」
↓
出力:半円内に横長の三角形を左右2つかく
↓
ポインタ初期位置:円の右端-0°-0ラジアン
↓
ポインタの動きのフォームは、分度器上の鉛筆の先の動きから類比
↓
ポインタ停止位置:カウント「1」つめの点
↓
読み出し:2-斜辺,「横長」--隣辺,「横長」-1-対辺
↓
出力:2-停止位置と原点を結ぶ線,1-停止位置から縦に伸びる線,
-原点から、「停止位置から縦に伸びる線」のふもとを結ぶ線
[サブ終了
↓
読み出し:-
↓
検索:単位円上の三角形の辺に書かれた「斜辺」「対辺」の数値
↓
入力:斜辺-2,対辺-1
↓
出力:
↓
チェック:終了状態?
↓
OK
これもよくあるフローである。<フロー1>との違いが分かるだろうか。この生徒については「」と「半円の3等分」がつながりさえすれば、図を書いた時点で自分で誤りに気づき、修正することができるようになる。
我々が「理解」と呼んでいるものの最も身近な段階はまさにこれで、「誤りを自分で修正できるようになる」ことである。つまり、「理解」は「処理」の外にあり、メタな階層からフローを監視、補強するものである。だからこそ評価が難しく、本気で評価しようと思えばテストにかなり斬新な工夫が必要である。
ちなみに最近対応した生徒のフローは次のようなものである。
<フロー1***>
入力:「」,「」,フォーム「xxx」
↓
判断:求めるものは「角」?「比」?
フォームのが既知-「比」,が未知-「角」
↓
「比」
↓
終了状態フォームを「」とする
↓
「」に対し、フォーム「」を用いて分母を抜き出す
↓
入力:「3」-分母として
↓
判断:その三角形は「縦長」?「横長」?「二等辺」?
{対応のランダムな混線
(3,6,4)(「縦長」,「横長」,「二等辺」)}
↓
「縦長」
↓
読み出し:「縦長」の三角比
{ランダムな混線 (「縦長」,「横長」,「二等辺」)}
↓
判断:斜辺?,対辺?,隣辺?
2-対辺,-斜辺,1-隣辺
↓
フォーム「」を用いて分子を抜き出す
↓
「」読みかえ「1」
↓
入力:「1」-分子として
↓
判断:三角形の位置?
↓
保留
↓
サブルーチン「弧度法表示から単位円内の三角形の図示」呼び出し(不完全)
サブ開始]
出力:x軸,y軸,単位円図示
↓
{ポインタがない(または円周上にない)}
ポインタ初期位置:{ランダムな初期位置決定 (円の右端,円の左端)}
ポインタの動き:{ランダムな回転方向 (右回り,左回り)}
↓
各象限の弧の中央付近を停止位置とする
↓
ポインタ停止位置:カウント「1」つめの点
↓
出力:停止位置から原点へ線を結ぶ
↓
出力:停止位置から円の右端または左端を線で結ぶ
↓
読み出し:{読み出しのランダムな誤り }
↓
出力:{根号のランダムな欠落 2-停止位置と原点を結ぶ線,1-停止位置と円の右端を結ぶ線,1-原点から、円の右端を結ぶ線}
[サブ終了
↓
読み出し:{ランダムな混線()}
↓
出力:
↓
終了
フィクションではない。至る所が混線していて、「運が良ければ当たることもある」という状態だった。その後個別にトレーニングをし、夏休み前にかなりの改善を見届けた。(夏休み後にどうなっているかは分からない)
詳細は次の記事に